「紅型の世界へようこそ 〜伝統と創造の交差点〜」
2025.02.15
紅型と私の原風景 〜色彩に刻まれる琉球の記憶〜
皆さん、いつも紅型に関心を寄せていただき、本当にありがとうございます。こうして琉球文化の美しさを伝えられることに、心から感謝しています。
私たちの工房は、琉球王国時代から王族や士族の衣装を彩るために紅型を染め続けてきました。そして私は、その伝統を受け継ぐ16代目になります。1977年生まれの47歳。幼い頃から紅型のある環境で育ち、その世界に包まれながら成長しました。
工房とともに生きる日々
私の実家兼工房は、3階建ての建物で、1階と3階が工房、2階が自宅になっています。この建物は、私の父・**城間栄順(第15代)**が、私が3歳のときに建てたものです。
「目が覚めたらすぐに仕事場へ行けるように」という意図のもと、父はこの工房を設計しました。つまり、私の生活は、常に紅型の仕事とともにあったのです。朝起きると、すぐに工房の空気を感じ、職人たちが色を重ねる筆の動きを眺め、乾燥中の布から立ち上る微かな染料の香りを嗅ぐ——そんな環境が、私にとっての”日常”でした。


工房の職人たちは、まるで家族のような存在でした。行事や法事にも参加していたため、私はかなりの年齢になるまで、彼らを本当の親戚だと思っていたほどです。紅型は、単なる技術ではなく、人と人とのつながりの中で生き続けるものなのだと、今になって強く実感します。
試練がもたらした気づき
しかし、当たり前のように続いてきたこの日常が、大きく揺らぐ出来事がありました。コロナ禍による経済の停滞と、首里城の火災です。
沖縄のシンボルであり、私たちの心の拠り所でもあった首里城が炎に包まれたのは、まだ暗い時間帯のことでした。私は、同級生から「首里城が燃えている」というメッセージを受け取ったときの、あの胸が締め付けられるような感覚を今でも忘れられません。
この出来事をきっかけに、私は琉球文化の重みを改めて考えました。伝統を守るということは、単に過去の技術を継承することではなく、その技術が生まれた背景や、人々の思いまでを未来へつなぐことなのだと気づいたのです。
そこで私は、工房の理念を見直し、「ものづくりを通して琉球の思いを守る」という言葉を経営理念に加えました。紅型を通じて、琉球の風景や物語、そしてそこに生きる人々の魂を表現する。それが、今の私の大きな目標となっています。
掲載作品に込めた物語
今回の写真の中には、50年前に染められた紅型が含まれています。この作品が作られた当時、沖縄では紅型の復興が進められており、職人たちは手間を惜しまず、一筆一筆、丹念に染め上げていました。
こうした古典的な紅型の中には、単なる伝統の継承だけではなく、今だからこそ感じる新鮮な美しさがあります。そして、それを現代の感性で再解釈し、新たな作品へと昇華させることも、私にとって大切な使命だと思っています。





「釣りの前夜 〜期待と不安のはざまで〜」
この作品は、釣りに出かける前日のワクワクする気持ちを描いたものです。
釣りをする人ならば誰しも経験したことがあるでしょう。明日は大物が釣れるかもしれない。でも、大きな針を選べば何もかからないかもしれない。ならば小さい針にするべきか? けれど、それでは大物を逃してしまうかもしれない。そんな期待と不安を抱えながら、仕掛けを選ぶ時間が、実は一番楽しいのです。
この「期待と不安のはざま」にいる瞬間の高揚感を、紅型の色彩で表現しました。

「ゆりあげ浜 〜波に揺られる命の記憶〜」
次の作品、**「ゆりあげ浜」**は、沖縄の浜辺に打ち上げられる貝殻から着想を得ました。
波打ち際に散らばる貝殻たち。その中には、つい先ほどまで生きていたものもあれば、20年以上前に死に、波に揉まれ続けたものもあります。しかし、すべての貝殻は同じように波に運ばれ、浜辺へと流れ着きます。
私はこの景色を見つめながら、命の循環について考えるようになりました。紅型の中に、この命の旅を閉じ込めたい——そんな想いを込めた作品です。

「沖縄の海のコントラスト 〜移ろう季節の色彩〜」
沖縄の海は、ただ青いだけではありません。
- 冬の海は、深みのある青
- 春の海は、やわらかな透明感のあるブルー
- 夏の海は、太陽に照らされ眩しいターコイズ
- 秋の海は、穏やかに金色の光を反射する
岸から2kmほど続く遠浅のリーフが、これらの色彩の変化を際立たせます。私はこの海を毎日眺め、季節ごとの変化を心に焼き付けています。そして、その一瞬一瞬の色彩を、紅型の作品に落とし込んでいます。

紅型を未来へ 〜あなたとともに紡ぐ物語〜
紅型の魅力は、単なる染めの技術ではなく、その一枚に込められた物語にあります。
今回の作品には、私自身の原風景や感情を映し出しましたが、皆さんが作品を見たときに感じるものがあれば、それはもう”あなた自身の物語”です。
紅型の色彩を通じて、沖縄の風や空気を感じていただけたら、それ以上に嬉しいことはありません。
そして、これからも紅型を通じて、琉球の物語を未来へ紡いでいきたいと思います。
また次回も、ぜひ紅型の世界を楽しみにしていてください。




城間栄市 プロフィール
- 昭和52年 沖縄県に生まれる。城間びんがた工房15代 城間栄順の長男。
- 平成15年(2003年) インドネシア・ジョグジャカルタ特別州にて2年間バティックを学ぶ。
- 平成25年 沖展正会員に推挙。
- 平成24年 西部工芸展 福岡市長賞 受賞。
- 平成26年 西部工芸展 奨励賞 受賞。
- 平成27年 日本工芸会新人賞を受賞し、正会員に推挙される。
- 令和3年 西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞。
- 令和4年 MOA美術館岡田茂吉賞 大賞を受賞。
- 令和5年 西部工芸展 西部支部長賞 受賞。
- 「ポケモン工芸展」に出展。
- 文化庁「日中韓芸術祭」に出展。
- 令和6年 文化庁「技を極める」展に出展。
現在の役職
- 城間びんがた工房 16代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
- 沖縄大学 非常勤講師